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京都市東山区。清水寺や祇園といった華やかな観光地の喧騒から、少しだけ離れると、そこには生活が息づく静かな住宅街が広がっています。
その一角、わずか4メートル四方の空間に、夜の3時間だけ開く「スペースぱせか」があります。「みんなの『空き地』」をコンセプトに掲げる「ぱせか」は、多目的ギャラリーであり、自主制作の小冊子ZINE(ジン)や野菜の販売もするちょっとふしぎな場所。


展示期間中の入場料は400円。引き換えに店内で使える400円分の割引チケットが渡され、野菜や展示作品などの商品を購入する際に利用できる
運営者の小泉楓馬さんは、平日の昼は、大阪北東部との境に位置する大山崎町で土を耕して畑仕事をし、夜になれば東山のこの小さなギャラリーで作家の展示を行い、自転車で東福寺近くの家に帰るというライフスタイルを送っています。
阪急電車の特急を使うと20分ほど、決して近くはない東山と大山崎を行ったり来たりし、昼間に広大な畑で土を触った手が、夜には小さなスペースでZINEをめくる。一見すると対極にあるような二つの世界を行き来する小泉さんの生き方は、効率やスピードを求められる現代において、余白のよさを教えてくれるようです。

なぜ彼はこの場所を選び、どのような想いでこのスペースを続けているのか。そのライフスタイルと京都・東山というまちへの視点について伺います。
昔から、一つのことに100%の力を注ぎ込んで突き詰めるよりも、いくつかの活動を同時並行で進めるほうが、自分にとっては自然だったんです。もちろん、一つの道を極めるかっこよさもありますが、僕の場合は力の配分を分散させている方が、なんだか楽なんですよね。

のめりこみすぎないというか、ほどよい距離感が保てるんです。サラリーマン時代も、仕事のかたわらで友人とグループ展を開催していました。
今は実家の農業を手伝いながら、夜はここでギャラリーを開く。このスタイルや物理的な移動のリズムが、自分のバランスをうまく取ってくれている気がします。

写真提供:小泉楓馬 大山崎の田んぼの様子
それが、意外と無理なく成立しているんです。営業時間は19時から22時までの3時間だけですしね。もしスペースぱせかをやっていなければ、家に帰ってただダラダラ過ごす時間です(笑)。それならここで、展示作業をしたり作家さんと話したりしている方が、自分にとってはいい時間なんですよ。
移動時間も、片道一時間くらい。家からぱせかまで自転車で移動しながら鴨川の橋を渡ったり、自転車をぱせかに停めたら、駅まで宮川町の情緒あるまちなみを歩いたり。

ずっと同じ交通手段だと飽きちゃうと思うんですけど、自転車、徒歩、電車と交通手段がミックスされて景色の見え方も変わるので飽きませんね。とくに朝早い時間や夜の静かな風景は、京都らしくて気持ちがいい。

場所を立ち上げる時、どんな空間にしたいかを考えました。イメージしたのは、ドラえもんに出てくる「空き地」です。ただそこにあるから人が集まり、土管に座って話し始め、何かが始まっていく。そんな自然発生的な物語が生まれる場所にしたいと思ったんです。
最初は名前を「スペース空き地」にしようかと思ったのですが、あまりにもそのままだから、少しひねりたくて。いろいろな言語で「空き地」という言葉を調べて、チェコ語で「ぱせか」という響きが気に入ったんです。
不動産サイトで見つけた時、明らかにここだけ異彩を放っていたんです。窓の形が特徴的で、外の廊下の雰囲気も相まって、内見して「ここだ」と直感しました。


スペースぱせかへ続く廊下
サラリーマン時代に展示を企画していた頃、気軽に表現できる場所の少なさを感じていました。大学を卒業して社会に出ると、どうしても制作を辞めてしまう人が多い。でも、ふとした時に「また何かやってみたいな」と思う瞬間があるはずです。そんな人が、大きなギャラリーを借りる一歩手前で、肩の力を抜いて試せる場所を作りたかったんです。
面白いですよ。空間が狭いから、知らない人同士でも自然と会話が始まるんです。展示中には、アーティストの知人と、たまたまInstagramを見てふらりと立ち寄った人とが、狭い店内で肩を並べて話していました。そこで連絡先を交換したり、「実は私も絵を描いていて」という話から次の展示を見にいく約束が決まったりする。

取材時にはアーティストHirakuさんによる展示「in my room」が開催されていた
本来なら出会わなかったはずの人たちが、この4メートル四方の空間で交差し、新しい関係性が生まれています。その光景は、まさに僕が目指していた「空き地」そのものだなと感じますし、ぱせからしくて嬉しいですね。

鴨川を境に、空気が変わるのを感じますね。河原町通や四条のにぎやかなエリアは、高い建物が多くて飲食店も密集しています。でも、橋を渡ってこちら(東山)側に来ると、背の低い家がメインになり、ぐっと生活の気配が濃くなる。一番大きな違いは音かもしれません。車の音や話し声が少なくなり、夜になればしんと静まり返ります。
東福寺周辺は、非常にカオスで面白い場所です。昔から住んでいるおじいさん、おばあさんがいる一方で、ゲストハウスが多いので海外からの旅行者が当たり前のように歩いている。さらに観光地へ向かう人たちも混ざり合う。

駅前や商店街で、国籍も年齢もバラバラな人たちが入り乱れているけれど、どこか落ち着いている。その混ざり具合が、このエリア独特の魅力だと思います。商店街に残るレトロな看板や、鴨川沿いの河川敷にある木のベンチなど、何でもない風景の中に愛着を持てるポイントがたくさんあります。
どちらも「手づくりのもの」という感覚が強いですね。僕は、そういう「手づくりの感覚」や「温かみのあるもの」が好きなんだと思います。
それから、自分以外の人の力を借りていること。農業も家族で取り組んでいますし、ぱせかでの展示は作家さんがいてこそ成り立ちます。

オープンして2年半経って、ぱせかという場所の個性がなんとなく見えてきました。「友達の部屋」や「秘密基地」みたいだとよく言われます。いい意味でアンダーグラウンドな雰囲気といいましょうか。一方で、初対面の人同士が楽しく話していることが多く、オープンな身内感がある。そのバランスがぱせかの個性ですかね。

その個性を超えていくように、作家さんの展示内容もよくなっている気がします。10年後は、今のような空気感を保ちながら、もっと近所の人から海外の人まで、さまざまな人がふらっと立ち寄れる場所にしたいですね。

実は僕は、東山を目がけてやってきたわけではないんです。町家に住みたくて、さらに京都の中心街にも自転車で行ける利便性を求めたら、たまたま東福寺のあたりだった。魅力的な物件を探していたら、たまたまぱせかのこの場所が見つかった。まちに対して先入観を持っていなかったことがポジティブに働いた気がします。

観光客が多い場所を避けてみる、というのが一番のアドバイスかもしれません。たしかに観光のイメージが強いですが、メインストリートから一本外れるだけで、東山は全く違う表情を見せてくれます。人の生活する雰囲気がぐっと色濃い感じがするんです。例えば、店先でおばあさん達が話し込んでいるのを見かけたり、観光スポットではない細道に迷い込んでみたり、そんな風景に出会えるところが好きです。

東山には、華やかな観光の顔と、落ち着いた温かいローカルの顔の両方があります。そのどちらか一方ではなく、両方を楽しめる人が増えれば、このまちはもっと面白くなるはずです。観光にフルスイングするのもいいですが、ローカル感もある活動が生まれていくといいな、と個人的には思っています。
小泉さんは、どこか1カ所で凝り固まるのではなく、場所や活動を行き来する面白さを体現しています。ギャラリーの活動をするだけ、農業をするだけではなく、どちらも欲張りながら生活のバランスを探る。
効率や正解ばかりを急かされる毎日の中で、私たちはつい何者かになろうと、ひとところで100%の力を出し切ることを自分に強いてはいないでしょうか。でも、東山の路地裏に灯る4メートル四方の「空き地」は、もっと軽やかでもいいのだと教えてくれます。
都会の近さと生活感が溶け合う東山。いろいろな顔を持つこのまちの懐の深さがあったからこそ、小泉さんは自分らしい試みをスタートさせ、続けてこれたのかもしれません。
自分の心地よい場所で、ペースで、生活を送ることを模索する。いわゆる「普通」の生活にとらわれず、小泉さんのように、自分にとって本当に心地よい生活をあなたも探してみませんか。


住所:京都府京都市東山区大和大路通松原西入弓矢町13 白扇マンション105
営業時間:19:00〜22:00 土曜日のみ14:00〜18:00 (季節により変動あり)
定休日:不定休(最新の営業情報はInstagramをご覧ください)
※2026年3月時点の情報です。