街の至るところに建つ寺社仏閣、自然豊かな鴨川、京都市を囲む山々。その光景をひと目見ようと、日本だけでなく世界中から観光客が訪れる一大観光地として有名です。そんな街に憧れて、いつか移住をしてみたいと考える方も多いのではないでしょうか。しかし、「観光地のイメージがあって、落ち着いて住めるのかな」「京都に馴染めるか不安」と、いざ移住をしようとすると、さまざまな不安がついて回ります。そこで、移住者3名にどのようにして、物件や居住エリアを決めたのか、そこに至るまでのプロセス、住んでみた感想など、ざっくばらんに聞いてみました。
俵谷千尋(たわらや·ちひろ)
1985年埼玉県出身。大手出版社や大手IT企業で出版企画や広告制作、ゲストハウスで受付業務を経験したのち、2021年夏にWebライターとして独立&京都移住。プロダクトの魅力をアピールする記事や、英語系の記事が得意。趣味は音楽活動と海外放浪で、今まで行った国は現在27カ国。人生で100カ国達成するのが目標。
林 皓太(はやし·こうた)
京都府出身。大学卒業後に京都、大阪、東京で暮らしながらITベンチャー企業・スタートアップ企業に勤務する。2020年2月に京都へUターン移住。2022年8月に独立して、パートナーとうつわと雑貨のお店を立ち上げる。現在はスタートアップ企業で働きながら、うつわと雑貨のお店の代表を務めるパラレルワーカー。
岩見 佳奈(いわみ·かな)
奈良県生まれ、福岡育ち。新卒では大手人材会社に就職し、地元福岡で人材紹介の法人営業を経験する。その後、京都市に移住し、とあるIT企業の京都事業所でバックオフィス業務に従事。2022年4月より、京都のスタートアップ企業で採用広報をスタート。
俵谷:夫と違って私は京都をまったく知らなかったので、2、3ヶ月に1回ほど京都に行きました。観光地に行くのではなく、コンビニやスーパー、街灯の数、交通量など、住む目線で街を見ていましたね。そうやって、少しずつ通う頻度を増やして慣れていったのが最初だった気がします。
林:物件探しですね。京都で仕事を先に決めてから、物件を選びました。実はそこまで時間がなくて(笑)京都で行われた最終面談のタイミングで、そのまま内見も済ませて、東京に帰って契約しました。
岩見:移住に向けて、最初にしたアクションは転職先探しですね。京都のなかでいろいろな会社をチェックし、今の会社に興味を持ち、ご縁をいただくことができました。
俵谷:よそ者に対して冷たいイメージがあって、受け入れてもらえるか不安でした。東京に住んでいたとき、周りに京都出身はおろか関西出身の方もいなかったんですね。だから、余計に先入観ばかりが強くなっちゃってて。
林:私は京都の宇治市出身で、ある程度土地勘もあるし馴染みもありましたが、京都市に暮らすのは初めてでした。だから、休日はどこに遊びにいけば良いのか、どこに行けば友達ができるのかみたいなイメージはできていませんでしたね。
岩見:私はそんなに不安はなかったんですけど、ただ友人に「京都に移住するよ!」と話したら、「京都は独特な言い回しがあるっていうけど大丈夫?」と心配をされて、少し不安でした(笑)。
俵谷:2つあって、1つが自転車で鴨川沿いを走る日常を手に入れること、もう1つが町家に住むことですね。京都ならではの暮らしに憧れがあって。
林:私も同じく、鴨川沿いをランニングすることに憧れがありました(笑)。自然豊かで歴史的な街並みを感じながら、早朝にランニングする様子を想像したらワクワクして。
岩見:京都には、観光地はもちろん素敵なホテルもたくさんあるので、プチ旅行じゃないけど、京都の中に泊まって観光してみたいと思っていました。
俵谷:すぐそばに自然があることですね。東京にも自然はありますが、鴨川は水も木々も美しいし、盆地で山に囲まれているので、新緑や紅葉など季節の移ろいを感じられます。自然の距離感が東京とは比べものにならないです。また、京都はそこまで人も多くなくて、いまだに電車で席に座れることに感動していますね(笑)。
林:自由に使える時間が増えたことですね。東京で暮らしていたときは、遅くまで働いて、家に帰ったらコンビニで適当にご飯を済ませて寝る生活を繰り返していました。でも、京都に帰ってきたら、考えたり、散歩したり、本を読んだり、映画を見たりする余裕があって。
情報量が少ないから疲れにくい側面はあるかもしれませんが、京都には、沖縄の「ウチナータイム」に似たゆったりとした時間の流れ方があると思っていて。
岩見:どこを歩いても新しい発見があることですね。京都の街はお店や交通が発達しているものの、どこか昔ながらの雰囲気が残っていて、完全に都会化してないところが良いなと。あとは、俵谷さんと同じく季節を感じられるのも魅力ですね。
俵谷:大通りの近くに住んでいますが、想像以上に夜が静かで驚いています。あとは「托鉢」ですね。最初、外で誰が叫んでいるのかと、夫と二人でビックリしました(笑)
林:僕も同じ感覚ですね。四条烏丸の交差点から少し大宮の方に歩いたところに住んでいたことがありますが、夜は音が聞こえないくらい静寂というか。住んでみて驚きました。
岩見:驚いたのは、祇園祭の人の多さですね。祇園祭のときに歩行者天国になるエリアに住んでいるのですが、ちょうどお祭の最中に、直進したら自宅なのに交通規制で一方通行になっていて、帰宅に苦労したことがありました(笑)。
俵谷:強いて挙げるなら、東京と比べると開催されているライブやイベントの数が少ないことですね。京都に住んで、あらためてアートや音楽といったカルチャーは、東京に集中していることに気付かされました。
岩見:私が移住して最も苦労したのが、通りの名称を覚えることですね。以前、タクシーに乗ったときに「通りの名前で教えてください」と言われて、上手く伝えられず運転手さんを困らせてしまったことがありました。
林:僕のパートナーが東京出身で、すべての道が一緒に見えると話していましたね。一瞬で、自分が今どこにいるかわからなくなるみたいです(笑)。
ーー地域とのつながりはありますか?
俵谷:町内会を通して、ご近所付き合いがあります。最初、町内会に入るか迷いましたが、防災やご近所付き合いの観点から入った方が良さそうということで入りました。回覧板や、防災バケツの設置や町内会費の集金など、定期的に回ってくる「組当番」などを通してコミュニケーションが生まれています。近所には、親世代の方が多く何かと気にかけてくれます。
林:住んでいる地域でのつながりはないですが、今私がお店をやっているので、お店を通して知り合いや、お店の近隣にある飲食店などを運営されている方、通りがかりの方など、さまざまな方との接点を持てていますね。
岩見:よく行く飲食店で顔見知り程度でつながっている方はいますが、今住んでいる家がマンションや観光客向けホテルが多いエリアで、地域とのつながりは持てていませんね。
地域のディープな情報は、「不動産屋さん」よりも「地元の人」に聞こう
ーーどういうエリア、物件に住みたいと思っていましたか?
俵谷:まったく土地勘がなかったため、具体的に住みたいエリアを決めていませんでした。夫と数ヶ月に1回、京都のさまざまなエリアに足を運び、北大路エリアと、二条エリアの2つに絞りました。最終的には北大路の落ち着いた雰囲気にしっくり来ましたね。
物件は町家が理想でしたが、いろいろ調べてみると「隣の家に音が響きそう」という懸念があり、考えが変わってしまって。しかし、築50年ぐらいの貸家という条件に近い物件に巡り合うことができました。
林:中京区や下京区のエリアをみていました。余白やゆとりを求めていた一方で、都会的な要素も欲しかったんですね。地元が宇治市なので、京都の中心地に住んでみたい憧れもあったのと、また中京区や下京区にはおいしい居酒屋や飲食店も多く、そういう場所に歩いて帰れるのも1つ魅力だなと思って。
岩見:会社から2km圏内に住むと住宅手当が出ることもあって、必然的に二条エリアになりました。いくつか物件の候補がありましたが、今住んでる物件近辺は祇園祭で歩行者天国になる場所で。「家にいながら祇園祭が楽しめるよ」というポイントが決め手となりました
ーー物件はどうやって探しましたか?また、あって助かった情報、逆に探す上で苦労したことは?
俵谷:大手賃貸検索サイトで物件を調べました。仲介や内見に関しては夫の知人経由で知り合った、京都で不動産をしている方に頼みましたね。ものすごく京都に精通している方で、エリアの特色を教えてくれたり、おもしろい物件を紹介してくれたりして、助かりました。
苦労したことは、交通の利便性ですね。東京なら「この駅なら〇〇線が通っていて、ここまで5分だから行きやすい」とイメージがつくのですが、京都だとピンと来なくて……。はたしてこの立地は便利なのか不便なのか、判断に迷いました。
岩見:私は、京都に特化した賃貸検索サイトで探しました。ただ、二条近辺には希望に合った賃貸物件がほとんどなく、選択肢が限られていて大変でしたね。最終的には、オーナーさんが住まずに貸し出している投資用マンションを、厚意で貸していただけました。もし、その物件で折り合いがつかなかったら、あまり良いお家に出会えなかったかなと思いますね。
林:大手賃貸検索サイトで探しました。特に、参考になったのは、やはり京都に特化した賃貸検索サイトでしたね。京都の土地に詳しい人に、車に乗せてもらいながら「この辺、実は開発が進んでて~」みたいな話を聞くことができて。京都市や北区みたいに、特定の土地に詳しい人から情報を聞けると便利だなと思いますね。