「観光のまち」としての魅力が知られる一方で、人口減少という課題を抱える東山区では、「住むまち」としての魅力を発掘・発信すべく、区民と行政が協働して「住んでこそ!東山プロジェクト」に取り組んでいます。
「未来の住むまち東山をつくる交流会〜みらひがし〜」(以下「みらひがし」という。)は、東山で新たな取組や事業にチャレンジする人たちがつながり、互いに応援し合えるコミュニティをつくるイベント。昨年に引き続き、第2回目となる「みらひがし」を令和7年3月10日に半兵衛麸 五条ビル2階 ホールKeiryuにて開催しました。
東山区で様々な取組を行っている3組の方に登壇いただくとともに、約40名が参加し、活発に交流を図りました。
プレゼンターによる活動紹介に先立ち、東山区役所の地域力推進室・河上企画課長より、「みらひがし」の母体となる事業「住んでこそ!東山プロジェクト」について、概要を紹介しました。
東山区の人口減少対策としてスタートした「住んでこそ!東山プロジェクト」では、民間の団体や地域プレイヤーとも連携し「移住希望者への住宅の供給」と「住みたい動機を高める」環境の整備を進めています。
地域の魅力認知から、定住・移住までを段階に分けてサポートしており、今年度はインスタグラム等での情報発信、お試し居住、ワンルームマンションの有効活用方法の検討に注力してきました。来年度からは次のフェーズに移行。東山区の「日常」や「地域とのつながり」を切り口に情報発信をはじめとする取組を進めたいと考えています。
今回のオープニングトークを担当いただいたのは、「京都市東山いきいき市民活動センター」の岡本卓也さん。
岡本さんがセンター長を務める京都市東山いきいき市民活動センターは、まちの住人の公益的な活動を、分野を越えて総合的に支援し、交流や連携の促進を図るために設置された東山区の拠点施設です。
岡本さん:活動にあたって、私が重要視しているコンセプトは「色々な人と一緒に活動する」「誰かに言われたからではなく、やりたいからやる」「面白いかどうか」の3つです。すでに市民活動をしている人やこれから始めてみたいという人に対して、活動の後押しやサポートを行っています。
活動は多岐に渡りますが、例えば、住民が1日限りの「先生」となる「みんなの学校ごっこ」という企画は、趣味で得た技術や知識などの誇れる価値を持つ人に対してフィールドを提供し、光を当てる「地域プレイヤーの表出」を目標にしたプロジェクト。「東山しゃべくり大作戦」という企画では、地域のプレイヤー同士が「ただただ喋る」機会を提供し「まちのつながりづくり」を目指しています。他にも、社会で起こっている事象を取り上げた動画を発信するサークル活動「Social Echoes」や、白川にゴミとして沈む陶器の破片を「地域の宝」として活用しアクセサリーを作成するプロジェクトなど、いずれも地域の方と連携して進めています。
実は、これら実行してきた企画の約半分は、地域の方の持ち込み企画。地域の方とお話をしていると、皆さんぽろっと「本当はやりたいことがある」と言うんです。僕の仕事は、それが「やれない理由」を全部潰すこと。スモールステップの最初の一歩を小さく提案することで、「これならやってみてもいいかな」と思ってもらえたらと思っています。
「東山を使って楽しく遊べることがまずは大事。社会課題の解決だけを目標とはせず、『自分がやりたいことを踏み出す』ことも大事にしつつ、みなさんと面白い東山をつくっていきたい」と結んだ岡本さんに続き、3組のプレゼンターに活動を報告していただきました。
「ココナガヤ」は、五条通から六波羅蜜寺へと続く路地「昭和小路」にある倉庫跡の空き物件をリノベーションした職住一体型の施設で、令和7年7月の完成を予定されています。
石田さん:「東山に住んで、働きたい人」が直面する障壁のひとつが家賃高騰という社会課題だと思います。それをどう和らげるかを考えた結果生まれたのが、住む場所と仕事をする場所がひとつになった「職住一体型」物件の提供でした。「ココナガヤ」は、これから東山に移住する人、新たな事業を始めようと計画する人、どちらにも喜んでもらえる施設になるのではないかと思っています。
同物件では、地域の住民のチャレンジを応援するコモンスペース「コト」の準備も進めており、入居者に限らない地域の繋がりづくりや、まちに開かれた「にぎわい」の場としての機能も果たす予定です。
東山区の住宅不足や高い空き家率の課題を解決し、昭和小路全体の魅力向上や、地域の価値向上を、私たちの「ココナガヤ」を起点に目指していきたいと考えています。
建物は、現在解体工事の真っ只中で、5月に入居者募集開始、7月にオープンの見通しです。6月には物件のペンキ塗りを行う「DIY作戦」の開催を予定しているので、物件を見学するつもりで「ここで何をしようかな」と想像しながらDIYに参加していただけたら嬉しいです。
大学進学を機に京都に移住後「京都で働いて7年、粟田学区で暮らして3年」になる高橋さんが運営するシチサンは、京都に移住した人に「地域で暮らした」経験をしてもらうためのシェアハウス。高橋さんは、現在は市内でirori、lukka、nunonの3軒のシェアハウスを運営されています。
高橋さん:京都に来た人が「ただ住む」のではなく「地域で暮らす」という経験ができる場所をつくりたく、シェアハウスの運営をスタートしました。土地柄、入居者には海外からやってきた方や学生も多いため、いずれシェアハウスを出て行くとき、思い出になるような物件でありたいと思っています。また、運営を続けているうち、入居者がシェアハウスを「卒業」した後の人生のサポートにも関わりたいという気持ちが募り、有志との猛勉強を経て、宅建の資格を取りました。今では、物件仲介を行う不動産業としても入居者のサポートを続けられる体制を整えています。
物件運営に加えて、地域の活動や古川町商店街のお手伝いをしていた縁で、現在まちづくり協議会の事務局長も務めています。移住者が地域活動に深く関わるのは難しいと思われがちですが、自分は移住者であることで、逆に地域の方と固定観念なくお付き合いができていると感じることも多いです。関係作りの最初から自分を包み隠さず付き合うことで、人と長く付き合いを続けていけるようになると信じています。
東山図書館館長の吉田さんは、図書館の持つ「利用者が少なく静かで寂しいイメージ」を払拭しようと「図書館でいきいき」「図書館を楽しい場所に」をテーマに様々な企画を実行中。利用者の「居場所」、演者の「活動の場」、図書館の「利用増」という各々にWin Win Winの構図を目指し活動されています。
吉田さん:私が館長に就任した当初は、コロナ禍だったこともあり東山図書館の利用者は多くはなく、とても寂しく感じました。そこで、もっとたくさんの地域の方に足を運んでもらえるようにと、職員と相談し「楽しい、つながる、居場所」をキーワードに活動を開始。子どもたちや乳幼児向けに月1回のお楽しみ会に加えて、昨年度は開館40周年だったことを活用して落語会や缶バッジ作りをはじめとする様々な企画をスタートしました。
今年度までに、京都堀川音楽高校生による絵本コンサート、こども司書、ぬいぐるみのお泊まり会、ボードゲームパーティー&ベビー・キッズ用品交換会等様々な企画を行っています。特にボードゲームパーティー&ベビー・キッズ用品交換会は毎回大好評で、今では奇数月第二日曜ごとに開催する定例のイベントになっています。
私たちの図書館は、今では「静かな場所」から「色々な人が集まって交流する場所」へと変わってきているのではないかと手応えを感じます。本を借りる機会がない人も利用できて、利用者の居場所や、活躍の場としての機能を果たすようになったことがとても嬉しいです。
3組の登壇者によるプレゼンテーションの後は、交流タイム。総勢約40名の参加者が数名のグループごとに、本日の感想や、自身の活動、やってみたいと思ったことなどを話し合い、共有していただきました。
参加者には、東山区で自身のプロジェクトを進めている方や地域に関わるお仕事・企画をされている方も多く、いたるところで「興味があったら是非イベントに参加してほしい」「お互いのプロジェクトを連携させ、協力できることがあるのではないか」など、プレイヤー同士が連携した次の新たな取組のはじまりを感じさせるお話も聞こえてきました。
交流タイムの最後には、東山における活動紹介やイベント情報などに関して、参加者が自由にPRできる告知タイムも実施。商店街での買い物に縁の薄いファミリー世帯をターゲットにした「古川町商店街のキッズキャンプ」や、留学生向け多言語求人媒体の掲載事業者募集、小学3年生の最年少参加者による東山区をテーマにした自由研究の報告など、12組の参加者に1分間ずつ熱くPRを行っていただき、互いの東山への熱量に、最後まで参加者同士が刺激を受け合っている様子が感じられました。
「東山区を愛し、面白いまちにしたいと思ってくださっている方々に集まっていただけたことが大変嬉しいです。みなさんがトップランナーとして既に駆け出し始めていること、これは区のポテンシャルだと思います。」
参加いただいた皆様の熱い想いと活発な交流を目の当たりにし、今後の東山の未来に期待を抱き、2回目の「みらひがし」は閉幕となりました。
登壇者と参加者が、地域とのつながりをキーワードに共感し、温かな雰囲気の中、互いに刺激を受け合った今回の「みらひがし」。今後、住むまち東山で起こる新しいアクションの芽生えを感じさせられる会となりました。
今後も、地域の民間事業者や団体等、様々な活動を行っている方々が交流できる場を創出し、相互の連携や活動支援に取り組んでいきます。